こんな夢を見た

 

 

 

名古屋城のシンボル、しゃちほこの片方が落ちかけている…

 

かつて栄華を誇った戦争の拠点は、ツタで覆われ、薄汚れている。

 

自然との戦いに疲れ、朽ち果てるのに、そう時は必要としないであろう。

 

昔、城を中心に暮らしていた人たちは、この建造物を見て

 

なにを考え生きていたのだろうか。

 

守られている安心感? 攻められる恐怖感?

 

支配されている絶望感?

 

 

 

 

子どもたちの、楽しそうな声を聞き我にかえった私は、

 

今、市庁舎の前、広大な芝生のパブリックスペース越しに

 

城を観ながら、お気に入りのブレンドコーヒーを飲んでいる。

 

まさか、実現するとは…

 

 


 

戦争で焼け落ちた木造の城は、戦後、復興のシンボルとして、


市民の寄付も集まり、コンクリート製の新たな構造で復元された。

 

しかし木造より堅固と思われた構造も、今の基準では

 

耐震不足の補強工事が必要だという。

 

そこで、いっそ元の木造で立て替えてはの案が出た…

 

世界遺産登録の野望もセットにして。

 

 

「バルス!」


 

 

 

ドン!大きく机を叩く音がして、おーいお茶が倒れた。

 

 

「何を言ってるんだ、デザイン都市開発室長!」

 

 

私は、大きく深呼吸をしてから手で合図する。


会議室のライトが徐々にトーンダウンし、

 

大型モニターに懐かしいアニメのシーンが映し出された。

 

 

「選択肢は二つですか?私は第3の案を提案します。」

 

「それは…」

 

 

 

 

戦争の拠点を残すことに、何の意味があるのだろう。

 

もちろん当時の技術の粋を集めて建てられた城は、

 

文化財としての価値は大きいだろう。

 

しかし、設計図もありコンピュータグラフィックによる

 

バーチャルな再現も容易になってきた今、

 

修復・復元することより重要な、何かがあるのかもしれない。

 

 

 

 

ドン!もう一度机を叩く音が響いた。

 

 

「デザインは作ることだけではないんだ。

 

人々の思いを、どう表現するかが大切なんだ!」

 

 

おーいお茶はテーブルを転げ落ち、

 

深紅の絨毯にシミを作っていった。

 

 

 

 

深夜まで続いた会議は、わずかの差で一つの結論に達した。

 

何もしないことを選んだのだ。

 

正確には、自然に任せて城が朽ち果てていく姿を見守り、

 

残った予算で公園の整備をすることを決めたのだ。

 

城を透明なガードで被い、周辺の広大なスペースに芝生が植えられた。

 

水やりから芝刈りまで、ロボットが深夜ゆっくりと音を立てず稼働する


全てをコンピュータ制御で管理する最新のシステム…

 


今この何もない芝生の広場に、人々はそれぞれ自由な時間を刻んでいる。

 

そして、自然との最後の戦いに、必死に堪える城を見守っている。

 

 

 

 

 

珈琲を飲み終え席をたった。おもむろにカメラを持った

 

外国の観光客カップルに、シャッターを押すのを頼まれた。

 

皮肉なことに、文化遺産を放っておくというこのスペースは、

 

世界でも話題となり、今では観光の目玉にもなっている。

 

 

ファインダーを覗くと、女性の胸元でキラッと何かが輝いた。

 

アクセサリーが夕日に反射したのだろう…それとも、

 

まさかの、飛行石?

 

 

 

 

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